利尻、礼文  サロベツ国立公園


利尻、礼文島




稚内から約25km西に位置する利尻・礼文島は、高山植物の宝庫であり、豊富な魚や昆布、夏には甘くて美味しいウニの産地。風景、食ともに人気の島である。

利尻島は島全体が一つの山で形成されている。深田久弥著「日本百名山」はこの利尻山から始まる。標高1,721mの独立峰利尻山(別名利尻富士)は、いま、百名山を目指して登山を続ける年配の人たちの憧れの島でもある。

一方、礼文島は人の住む日本最北の島で、490mの礼文岳が最高地点。大きな山はなく全体になだらかな丘陵地が広がり、身近に高山植物など貴重な自然と親しむことができる。

2つの島にはレンタカーの営業所もある。合わせて約150kmの島内をゆっくりと巡った。



<コース>
稚内-利尻島-礼文島

利尻島
北海道から約20kmの日本海に浮かぶ火山島。利尻山そのものが島でもある海岸線に沿って一周する道路は約55km。島の面積183km2だ。かつてはニシン漁が盛んで出稼ぎの人も多かった。現在はウニ・ホッケ・昆布漁が主要産業で、観光業の島でもある。
稚内からフェリーで約2時間、北部の鴛泊(おしどまり)に着く。

港には土産物屋、ホテル、民宿それに夏が旬のウニを食べさせる食堂が「ウニ丼」などと染め抜いた派手なのぼりを立てて観光客を待つ。


利尻山                         船を追うカモメ




鷺泊港                                     名物ウニ丼


利尻一周ドライブ

鴛泊港から北へ。雲間に見え隠れしながら刻々とその姿を変える利尻山を仰ぎながら、ドライブのはじまりだ。
利尻山は移動につれて姿を変える

 

                                                    花畑と利尻山           沓形岬の道標。サハリンまで108㌔                                     


沓形岬

島の西海岸に突き出た岬。北方10kmにある礼文島と、振り返れば利尻山の山容を見渡す景勝地。変化に富んだ海岸線と夕日の美しさを堪能できるポイントでもある。
透明度の高い海底を覗く「海底探索船」の出航場でもある。周辺には展望台やキャンプ場もある。
沓形岬。サハリンまで108キロとある


神居海岸

人面岩

西海岸のみどころの一つ。利尻島創世記に噴火した溶岩そのままのダイナミックな海岸線が続く。奇岩怪石が連なり、人面岩、寝熊岩などの名がついた岩もあり、ちょっとした自然のアートギャラリとも言える。龍神岩の上には赤く彩られた小さな弁天宮が祀られている。
この奇岩群から南へわずかに下った道路脇に「麗峰湧水」という湧き水がある。利尻山に降った雨水や雪解け水が、長い年月を経て湧き出た水だ。もともと飲み水も綺麗な島でありながら、この水を汲みにくる島民があとをたたない。聞けば「ミネラルが豊富」だという。
人面岩(目のところにはカモメがいる)

 
寝熊岩                      龍神の岩

仙法師御崎公園

鋭く猛々しく姿を変えた利尻山を望む駐車場から少し下ると、奇岩や岩礁の広がる海岸に抜群の透明度を誇る海が広がる。周囲には遊歩道があり景観をゆっくり楽しめる。遊歩道下の磯に作られた自然観察場では、ムラサキ・バフンの2種類のウニや昆布などが自然のままの姿で見ることができる。

オタトマリ沼



島のハイライトともいうべきオタトマリ沼は、ガイドブックやパンフレットには必ず紹介されているばかりか、沼に映る逆さ利尻山は島の景勝中の景勝地だ。北海道の銘菓“白い恋人”のパッケージデザインは、道路を挟んだ沼浦展望台からのオタトマリ沼と利尻山なのだ。
すでに暮れなずみかける時刻、湖畔の土産物店や食堂も閉まり人影もない湖水に一羽の白鳥が降り立った。逆さ利尻山とともに絵になる光景であった。
沼周辺は日本最北限の赤エゾマツの原生林であり、アヤメの群生地でもある。30分ほど散策できる遊歩道もある。

南浜湿原

翌朝オタトマリ沼の南にある湿原を訪ねた。ここは島最大の湿原であり、植物の宝庫でもある。道路脇を少し歩くと、小さな沼があり昨日の白鳥がこの沼に来ていた。数人の地元の人がそれを見物に来ていた。年配の人の話では、「この沼で白鳥は見たことがない。群れからはぐれた幼鳥だろう」という。仲間を見失った白鳥には気の毒だが、実に幸運な出会いだった。沼の水は褐色で「この水で風呂をたてると、とても暖まるのだよ。ただし、手拭いが茶色に染まるけどね」。そして「ここ数年で急に沼が小さくなった。たぶん水の汚染で植物がはびこったのだろう」ともいった。

 
南浜湿原と白鳥                     ヒオウキアヤメ(南浜湿原で)

礼文島
「海の上の植物園」と言われる礼文島は、本州では標高2,000m級、北海道でも1,600m以上の高地にしか咲かない高山植物が、海抜ゼロメートルから観ることができる“花の島”として親しまれている。島内には約300種の高山植物がある。とくに6月中旬から8月中旬にかけて咲く白い花、レブンウスユキソウ(エーデルワイス)やレブンアツモリソウは人気が高い。


レブンウスユキソウ    レブンアツモリソウ        ハマナス

利尻島の鴛泊港からフェリーで約45分、島の玄関口香深(かふか)港につく。(稚内からの直行便もある)。
面積82km2の小さな島なので、日数をかけて徒歩で巡る人も多い。車での島内観光も約4時間が必要だ。島の西側は断崖や岩礁のため自動車道路はない


     キクバクワガタ        タカネナデシコ          ハイキンポウゲ
  
  香深港から北スコトン岬を目指す。北の岬まで約26km。途中には、島に咲く花の希少種を絶滅の危機から救うための施設「高山植物培養センター」があり、このセンターに併設して「高山植物園」がある。園内では約2万株の育成種が観察できる。
センターの先の道路沿いには久種湖(くしゅこ)があり、湖畔にはキャンプ地が設備され、遊歩道もある。    
   
  
チシマワレモコウ    エゾカンゾウ           エゾツツジ
       
スコトン岬
礼文島の最北端、緯度で宗谷岬にわずかに及ばないが、日本北端の岬である。岬の下に飛び石のように岩礁が続き、その先には無人のトド島がある。岬から南にゴロタ岬、澄海(すかい)岬へと歩いて巡る約4時間のコースがある。
この周辺は花の種類も豊富で初夏には礼文島の固有種、レブンアツモリソウの群生地がある。花の盛りを過ぎ、咲きそろう状況は見られなかった、秋にはツリガネニンジンに出会える。


スコトン岬から山の上を走る観光道路がある

 
                                   礼文最北端のスコトン岬とトド島          ヨツハシシオガマ                                              、)
                        
スコトン岬の南方、丘陵の上には文化年間(1804~1818)当時国交がなかったロシアとの密交易で富を得た銭屋五兵衛が、その拠点地とした海岸を見下ろすように記念碑が建つ。時の“風雲児”と呼ばれた銭屋五兵衛は、今は大型船が行き交う北海を帆を張った小船で縦横無尽に航海していたのだ。
大海原を見渡す高台の道は狭く、花々を観察しながら歩く人が多いので、車で移動する人は気をつけたい。



銭屋五兵衛の碑

  
ハマエンドウ      マルバトウキ       チシマギキョウ

   

 ミヤマオダマキ      エゾスカシユリ    シリヒナゲシ    アカネムグラ                       

澄海(すかい)御崎

丘を下り海岸線へ戻ると澄海岬への案内がある。駐車場で車を降り、徒歩で約5分岬への道を上る。黄色いエゾカンゾウや濃いピンク色したレブンシオガマの咲く崖の下には文字通りの澄んだ碧い海の入り江を観る。濃いコバルトブルーの海は光の反射でエメラルドグリーンにも変わる。思わず感嘆の声を上げる風景だ。
澄海岬
駐車場から岬とは反対の断崖の下に集落がある。小さな港にはホッケ漁から戻って間もない船と、さし網からホッケを外す人たちの大きな声があった。
礼文島のホッケ漁は7~9月が盛りで、もっとも脂がのって旨い時期だという。礼文の「島ホッケ」はどこでも見かける「縞ホッケ」とは別種。縞ホッケの大半は現在は輸入品とか。
大きな声でおしゃべりしながら、人々は島ホッケの網外しに余念がない。

  
昆布を売る店  

見内神社
神社近くの海岸にある大きな岩をアイヌの人たちはとても恐れていて、見えていても見なかった“みないカムイ(神)”伝説のあったところ。明治になってからは安産の神様として祀られていた。
神社脇では一家総出にアルバイトを加えた大勢の人たちが干したコンブの取り入れをしていた。早朝に海へ出て採ったコンブは天日干しされ、午後にはさらに乾燥室で干すのだという。礼文島のコンブは「利尻昆布」のブランド名で出荷されるのだそうだ。

  


昆布の取り入れ
昆布専門の店。天然の利尻昆布もあった

香深に戻り、尻尾のように細くなった島の先を横断する通称「桃岩展望台コース」を辿る。走行距離はわずかでも、駐車場から桃岩展望台へは徒歩約15分の登り道。遠く海の中に浮かぶ秀麗な利尻富士と、足下にはエゾウド、レブンシオガマなどが咲く登山道である。
標高244mの「桃岩展望台」先に丸みを帯びた切り立つ崖の「桃岩」や、断崖から見下すと大きな猫が坐っているように見える「猫岩」と名付けられた奇岩などを観ながら、展望台を降りて、地蔵岩へ。


桃岩展望台からの利尻山


  
桃岩                   猫岩



姫沼
鴛泊港からわずか5kmのところにある原生林に囲まれた周囲1kmほどの、利尻山を映す小さな神秘的な沼。深い森の中、野鳥のさえずりをききながら遊歩道を歩くと、島にいることを忘れそうだ。



地蔵岩

西海岸沿い約2km、漁村を通り過ぎた道の終点に巨大な岩盤が2つに割れ、塔のようにそびえる地蔵岩があった。
いまから2万年前、島は大陸続きだったという。氷河期が去り海面が上昇して礼文島が離島になった。長い地球の歴史の中で生まれた島は、また長い歳月をかけ海岸には奇岩や断崖絶壁を生み、固有の植物を育み美しい風景を創り上げてきた。